ものづくり王国・愛知

リンナイ株式会社

ガス器具の電子制御を先導し安全・便利を追究

■点火装置の開発からスタート

便利な暮らしを望む気持ちから新しい製品が生まれてくる。リンナイの給湯機器・厨房機器・空調機器などの製品を見ていると、そのことがよくわかる。
たとえば、最新型のリンナイ製ガスコンロがどのような機能を備えているのか、簡単に説明しよう。

まず、ガスコンロの炎。昔からよくあるような上に向かって炎があがるのではなく、炎は内向きで、それがうずを巻くように燃焼する。名付けてトルネード燃焼。熱効率が高く、より少ないガスで無駄なく加熱するメリットがあるほか、微妙なとろ火の調節が可能で、点火時に大きな炎が出ないために、衣服への着火を防ぐなどの安全性にも優れている。

最新のガスコンロ

また、魚を焼く場合、「干物」か「切り身」か「姿見」かを選択して、焼き加減を「強め」「標準」「弱め」から選べば、後は自動的に焼き上がるし、揚げ物の場合は、油温度を一定にキープする機能もある。さらに、調理時間をタイマーで設定できたり、コンロの使用状態を音声で知らせたり、震度4以上の揺れを関知すると自動消化したり。そのほかにも、美観性と耐久性を兼ね備えた耐熱セラミックガラスのトッププレートやオーディオのボリュームを操作するような感覚の火力調節ツマミなどなど…、その機能は数え上げればきりがない。

より効率的で安全・便利なものを追究した結果が、こうしたさまざまな機能の誕生につながった。とくに、ガス器具の場合は、車と同じように、ひとつ間違うと人の命に関わる重大な事故につながる可能性があるだけに、安全性に対しては徹底した配慮がなされている。天ぷら油過熱防止装置や焦げ付き消火機能、不完全燃焼防止装置、換気扇連動装置などは、すべて安全の追究から生まれたものだ。

これらの機能はすべてマイコンによって制御されており、今やガス器具は自動車と同じように、電子制御技術が重要な役割を担うようになっている。こうしたガス器具のIT化とも呼べる流れは、まさにリンナイが先導してきたといっていい。それは約30年前、点火装置の開発から始まった。

「当時、ガス器具に電子制御を組み込むという発想はどこにもなかったが、当社は、それにいち早く取り組みました。現在、日本のガス器具は、ガスをコントロールするという意味では、世界の中で圧倒的に優位に立っています。とくに、燃焼によって排出されるNOxやCO2の抑制が大きなテーマとなっている今、ますますガスを電子制御する技術の役割が高まっています」と大口工場長の長坂隆さんは強調する。

■マイコンの登場で新たな課題

大口工場長の長坂隆さん(右)と
技術開発部長の近藤雄二さん(左)

リンナイは、かなり早い段階から、現在のような電子制御技術によるガス器具の高機能化を想定した取り組みを始めている。リンナイの電子基板製造を担っているアール・ビー・コントロールズという別会社を昭和46年に設立し、着火装置の開発・製造をスタートしたのを皮切りに、今から約25年前に、社内に電子制御技術を専門に研究開発する部門を設置した。

「私が入社したのは、ちょうど電子制御技術の研究開発が始まった頃です。当時、その部門の人員は5名ほどで、まず、着火装置と安全装置の開発からスタートしました。その後、さらなる安全性・利便性の追究をしていくなかで、10名、20名と増え、今では電子制御技術の部門だけで約60名になりました」と技術開発部長の近藤雄二さん。

その過程でエポックとなったのはマイコンの登場である。マイコンとはコンピュータの基本機能が詰まっている小さな部品で、マイコンにプログラムを書き込み回路を付け加えれば、さまざまな制御が可能となる。

着火装置以外で、リンナイがはじめて電子制御による商品を世に送り出したのは電磁弁を搭載したオーブンだった。ガス器具のひとつの部分が壊れたことでガスの弁が開いてしまっては大事故につながりかねない。それを避けるため、ガスの弁は絶対に安全な状態の時にしか開かないように電磁弁を設計する必要があった。

しかし、一般的に、電子部品は熱に弱く、温度が10度上がると部品の寿命は半分になるといわれている。炎による温度上昇は避けられないという悪環境の中で、電子制御の信頼性をどれだけ保つことができるかが大きな課題だった。さらに、着火装置の火花によるノイズで電磁弁が誤作動しないように設計することも求められた。こうした課題を一つひとつクリアすることで、ガス機器の電子制御が実現したのである。

「雷やいろいろなノイズによって誤作動したり、部品が壊れたりすることを想定しなければならないなど、ガス器具ならではの開発の難しさがありました」と近藤さん。

その後、ほとんどのガス器具がマイコン搭載のものへと切り替わっていくなかで、それまでの機械的な動作だけで済んでいた時代では、考える必要のなかったいろいろな可能性を想定しなければならなくなった。たとえば、電子部品は水に濡れてしまうと故障の可能性が高くなるし、ゴミにも弱い。そのため、開発過程で、製品を水に浸したりする実験を繰り返し、なんとか信頼性の高い部品へと変える努力を続けた。

「やはり自分がつくった製品はかわいいですから、どうしてそんなにいじめないといけないのかと感じたこともありました。しかし、万が一のことがあれば大変なことになる。だからこそ、かわいい子は鍛えておかないといけないんです」と近藤さん。

現在は、電子基盤を樹脂で固めてゴミや水が進入できない構造にすることで、それらの問題は解決しているが、ガス器具の電子制御という前例がない当時は、試行錯誤の連続だったという。

■ブラックボックスをなくすためのソフト開発へ

マイコンが組み込まれている基盤

もう一つ、マイコン時代特有の課題があった。それが、マイコンに組み込むソフトウエアの開発である。当初、ソフト開発は専門業者へ委託していたが、自分たちの意図が十分に伝わらなかったり、バグと呼ばれるソフト上のミスによって、思いもよらないときに炎が消えてしまったり、誤作動することが起こった。それをきっかけに、リンナイはソフトの内製化に踏み切る。

それまで、ソフト開発を100%内製しているガス器具メーカーはどこにもなく、ソフト開発は外部に任せるのが一般的であった。しかし、「自分たちが見ることのできないブラックボックスをなくしたい」という思いから、近藤さんをはじめとした電子制御部門のスタッフは、これまでの仕事に加えてソフト分野へ挑戦することになった。

ソフト開発では、たとえば、魚を設定した焼き加減で自動的に焼き上げるとか、設定された温度のお湯をバスタブの適量になるまで自動的に供給するといった便利な機能をつかさどるのはもちろんだが、間違って操作ボタンを押したときにも安全を確保するとか、ノイズにも誤動作しないようにするなど、あらゆることを想定しなければならない。そのため、リンナイでは、開発の最終段階で、約1ヵ月間をかけてソフトのバグをチェックし、問題が発生しないように細心の注意が払われている。

ガス器具というと、金属加工や燃焼のイメージが強いが、今やガス器具は電制御技術がキーポイントで、ソフトの内製化以前と以降では、リンナイの電子制御部門の仕事内容も大きく変化しているそうだ。

もちろん、その一方では、たとえば炊飯機能付きのガスコンロでは、資格を持つ社員が何度もお米を焚いて、最もうまく炊けるようにガスをコントロールする実験を繰り返したり、実際に魚を焼いて最適な焼き加減を探ったりするほか、操作のツマミの耐久性を調べるために、壊れるまでツマミをまわし続けるなど、常にハードとソフトが連携しながら開発が進められている。

ひとつのガス器具が誕生する背景には、このように何度も繰り返される試験・実験がある。
近藤さんは「ガス器具における電子制御はこうあるべきという基準は、私たちがつくり上げてきたという自負はあります」と話す。

■将来のネットワーク化を視野

大口工場

今後、ガス器具は単体の製品ではなく、家庭内の他の機器とリンクし、システムの中で機能する製品となると予想されている。たとえば、ホームサーバーが厨房機器と給湯機器、空調機器を管理し、それぞれの機器の状況がひとつのモニターに表示されて、万が一故障があったときには、その情報がガス会社やガス器具メーカーへ瞬時に伝わりサポートが受けらるというような、家庭内ネットワークの構築が将来の目標である。

そうなれば、携帯電話から風呂を沸かしたり、帰宅する前に携帯電話から暖房のスイッチを入れておくことも可能となるかもしれない。

「ガス器具は単体ではなく、他の機器とリンクするものだというイメージは、かなり前から持っています。すでに、風呂場のモニターに玄関のインターホンの映像を映すなど、いくつかのものは実現しています。今後さらなるネットワークを構築するには、キーテクノロジーは自社でつくるにしても、企業同士の連携が必要になってくるでしょう」と近藤さん。

はたして、今後、ガス器具はどこまで便利に、安全になっていくのか。ただし、どれだけ便利な機能が追加され、ネットワークシステムの中に組み込まれようと、リンナイの品質を第一に考える開発姿勢に変化はないだろう。ひとつの製品を生み出すために繰り返される膨大な試験・実験の中に、ガス器具トップメーカーとしての自負と、メーカーの良心が宿っている。

◆愛知ブランド企業 認定番号123
リンナイ株式会社