ものづくり王国・愛知

株式会社ポッカコーポレーション

品質にこだわり缶コーヒーの歴史を切り開く

■高速のサービスエリアでひらめく

今や缶コーヒーは、いつでもどこでも気軽に飲める日本の代表的な飲料となっている。街のいたるところに自動販売機が置いてあり、夏はアイス、冬はホットに入れ替わるのは、もはや当然のことだ。
しかし、こうした便利な状況は、それほど昔からあったわけではなく、缶コーヒーと自動販売機が登場した昭和40年代の半ば以降のことだ。そして、それらを世界で初めて開発したのが、ポッカコーポレーションである。

ポッカは、昭和32年にレモン果汁飲料の製造販売からスタートした。創業から12年ほど経ったある時、創業者の谷田利景さん(現・相談役)が、開通したばかりの名神高速道路を走行中に、運転手が眠気覚ましに養老サービスエリアでコーヒーを飲もうとした。
ところが店は混んでいて、注文してからコーヒーが出てくるまでに相当な時間がかかってしまった。その時、谷田さんはひらめいた。
「コーヒーを缶に詰めれば、どこでも気軽に飲めて非常に便利になる」。

世界初の本格
缶コーヒー

それまで、ポッカは、コーヒーや紅茶などの飲料は販売していなかったが、さっそく缶コーヒーの開発に着手。目指した味は、本物のコーヒー豆を挽いて抽出する喫茶店のコーヒーだった。容量は、喫茶店の標準だった約180グラムよりも若干多めにした。

また、当時、コーヒーは砂糖とミルクを入れて飲むことが主流だったため、あらかじめミルク、砂糖を混ぜ合わせた。こうして、世界初の本格的な缶コーヒーは、昭和47年に製造を開始した。この年が日本の本格的な缶コーヒー元年である。

さらに、谷田さんの発想が画期的だったのは、その缶コーヒーを自動販売機で販売しようと考えたことだった。当時、冷たい瓶ジュースや紙コップに直接飲料が注がれる自動販売機はあったが、温かい缶飲料の自動販売機は世の中になかった。谷田さんは、いろいろな機械設備メーカーをまわって、缶コーヒーの自動販売機を量産してほしいと嘆願した。

しかし、海のものとも山のものとも知れない依頼に応えてくれるメーカーはなく、ことごとく断られてしまった。そのなかで、唯一、サンデン(当時は三共電器)の社長だけが「よし、わかった。つくってみよう」と言ってくれた。
その結果、缶コーヒーの製造を開始した翌年には、ホットとアイスを両立できる自動販売機が完成。第1号機は、缶コーヒーの開発を思いついた養老サービスエリアに設置した。また、開発から7年後には、ホットとアイスを混在できる自動販売機も開発している。

自動販売機での缶コーヒー販売は、3年間は緩やかな伸びにとどまっていたが、それ以降は爆発的な伸びを示し、全国各地に缶コーヒーの自動販売機が設置されていくようになると同時に、その市場は一気に拡大していった。このように、本格的な缶コーヒーの歴史は、ポッカが切り開いたといっても過言ではないが、その後も、同社は次々と画期的な製造方法を開発して業界をリードしている。

■画期的な脱酸素製法を開発

味、香りというコーヒーの品質の面では、セラミック遠赤外線焙煎を昭和62年に開発している。
従来のガス直火式では豆表面が焦げ、焼きむらができ易く、また、熱風式は直火式より均一に加熱はできるが、多量の熱風と時間がかかり、エネルギーコストが高くなる欠点があった。
ポッカは、それらの欠点を克服するため、セラミックメーカーと共同で、セラミックスを用いた遠赤外線焙煎装置を世界に先駆けて開発・実用化した。その原理は、石焼き芋や甘栗が、熱せられた石から輻射する遠赤外線の作用で、表面が焦げることなく芯までふっくら焼けているのと基本的に同じである。

従来の直火や対流で焙煎する方法では、豆の内部まで熱を均一に伝えるのが大変で、外側から順に焼けていくため、芯まで焼こうとすると高温にする必要があり、表面は焦げてしまう。これが焦げ味、雑味の主な原因で、大切な味の成分を高温によって破壊してしまうことにもなっていた。しかし、セラミック遠赤外線焙煎では、遠赤外線が豆の内部まで到達し、豆の分子を振動させて発熱。
この熱によって、コーヒー豆は芯からムラなく焙煎されるため、焦げによる雑味がなくなって、すっきりとしたと味や香りとなった。

脱酸素法でつくられた 缶コーヒー

画期的だったのは、平成8年に開発した脱酸素製法である。
飲食物の品質を劣化させる大きな要因の一つに空気中の酸素による酸化現象がある。食品にとって、酸化は品質を低下させる大きな要因であることは常識だった。たとえば、皮をむいたリンゴをそのまま空気中に置いておくと、すぐに色が変わってしまうのは、酸化現象のひとつである。
コーヒーの場合も、抽出した直後の香りや風味は、しばらくすると酸化によって薄れてしまうが、逆に考えれば、酸化を防ぐことができれば、味や風味を長持ちさせることが可能となる。そこで、ポッカは、使用する原料(砂糖・牛乳・コーヒー豆・水)のすべてから、風味劣化の原因である酸素を取り除き、しかも製造に使用する抽出釜・タンク類も窒素で置換し、内容物と酸素の接触をシャットアウトすることをめざした。

問題は、実験室レベルでは酸素を完全に除去することは難しくないが、それをいかに量産工程へ導入するかにあった。当初は「月に工場をつくるしかない」とか「工場全体を無酸素状態して、オペレーターは宇宙服か潜水服を着て作業するしかない」といった冗談も飛び出したほど、それは困難な課題だった。

しかし、窒素ガス置換によって脱酸素する手法を確立し、コーヒーを抽出する水や混合する乳分の溶存酸素を除去する装置、コーヒー抽出機の内部を脱酸素状態にする装置、混合タンクの内部を脱酸素状態にする装置のほか、充填機には缶内の酸素を追い出す装置などを次々と開発。さらに、工程間の配管類もすべて脱酸素状態を実現した。ここまで徹底して酸素を除去する製造を実現してるメーカーは他にない。

「以前から、食品にとって大敵である酸素を除去しないといけないという考え方はあったのですが、それまでは、饅頭や煎餅の袋の中に入っている脱酸素剤ぐらいがある程度で、飲料の製造工程で酸素を除去するという試みはありませんでした。脱酸素製法の開発によって、まったく次元の異なる製造方法に生まれ変わったといっていいほどです」と企画本部広報グループマネージャーの井上佳昭さんは強調する。

実験室レベルではなく、量産の製造工程で酸素除去を実現した脱酸素製法は、ポッカの品質へのこだわりを如実に物語っている。

■「鮮度」というおいしさの新基準を提案

このほかにも、コーヒーのいれはじめだけを抽出するファーストドリップ製法を開発している。
これは、おいしさをダイレクトに伝える、いわば「いいとこ取り」の製法である。また、遠赤外線焙煎と従来の熱風式を合わせた遠赤ダブルローストなど、ポッカは「いれたてのコーヒーのおいしさ」を目指して、次々と新たな製造方法を開発していった。こうしたポッカの技術開発は、業界内でも話題を呼び、さまざまな技術・製法を争う時代が到来するきっかけともなった。

社長の内藤由治さん

ポッカがこのように製造方法にこだわるのは、最初に本格的な缶コーヒーを開発したという自負とともに、「おいしいコーヒーを手軽に飲んでほしい」という原点を常に意識しているからだ。それは、コマーシャルなどの販促投資や自動販売機の設置台数によって、缶コーヒーの売り上げが決まってしまう部分が大きいなかで、あえて製造方法によって他社との差別化を図るというひとつの戦略でもある。

もっとも最近、ポッカが力を入れているのが鮮度管理という概念である。それは、おいしいコーヒーの条件である「焙りたて・挽きたて・淹れたて」という「3たて」にこだわることで、コーヒーに「鮮度」というおいしさの新基準を提案する試みである。

ポッカでは、それを独自のフレッシュRGB製法という製法で実現している。それは、前述の遠赤外線焙煎、脱酸素製法、ファーストドリップ製法などの独自製法を駆使するとともに、焙煎(Roasting)、粉砕(Grinding)、抽出(Brewing)のすべての工程を綿密に管理し、常に鮮度に気を遣いながら生豆から最終工程までを自社で一貫生産するシステムで、最適なタイミングで缶コーヒーを消費者へ届けられるように、製造スケジュールが厳しくチェックされている。従来は焙煎から充填まで1週間ほどかかっていたのが、この生産システムを導入したことによって、平均3日間という短期間で製造することが可能となった。

さらに、「次のキーワード香りです。香料を使ってコーヒーの香りを出しているメーカーもありますが、当社は、香料を使わずに、コーヒーの香りをできる限り残せる製法を考えています。味には、これが正解というものがありません。ただ、ひたすら追求していくことが大切なんです」と井上さんは話す。

■常に原点に立ち帰り、品質を追求

名古屋工場

昭和50年代の初めには、冷蔵庫の大型化に合わせて、家庭で飲むことを前提とした820ミリリットルという大型缶のアイスコーヒーを出して、ヒット商品となった。また、甘さ離れが加速した50年代には、砂糖の量を少なくした缶コーヒーをいち早く市場に投入している。60年代には、値段が100円だった当時、豆のグレードを上げて150円の缶コーヒーを出した。

最近では、通常の缶コーヒーでは牛乳を使うところを、コーヒークリームに使われる植物油脂を採用し、レギュラーコーヒーに近いコクと苦みのある缶コーヒーを提案している。このように、豆の種類・ブレンド・焙煎方法など無数の組み合わせの中から最良のレシピが生み出し、それぞれの時代が求める味を追求する試みは日々行われている。よりおいしい味を求める努力に終わりはない。

井上さんは、「ここ10年の缶コーヒー業界は消耗戦といわれています。ポス管理(販売時点情報管理システム)を導入しているコンビニでは、中期的に商品を育てづらい面があります。
また、テレビコマーシャルをしているかどうかが、コンビニの棚に並ぶか並ばないかのひとつの基準になっているため、体力のあるメーカーが強いところがあります」と分析しながらも、「それでも、やはり当社は、おいしいコーヒーを手軽に提供したいという原点を忘れず、品質にこだわっていきたい」と語る。ここに、缶コーヒーの歴史を切り開いてきたポッカの気概と自負がある。

◆愛知ブランド企業 認定番号156
株式会社ポッカコーポレーション