ものづくり王国・愛知

株式会社オリバー

新たな家具の在り方を提案する空間プロデューサー

■新首相官邸や中部新国際空港の家具を手がける

中部新国際空港に納入した椅子1

国内の家具メーカーのほとんどは小規模で、従業員数が10人に満たない企業が全体の8割近くを占めるといわれている。それだけに、多様な家具を製造する企業は少なく、タンスなどの箱物家具を得意とする会社、椅子やテーブルを得意とする会社、和家具、洋家具それぞれを得意とする会社と細分されているのが現状だ。そのなかで、愛知県は、全国的にみても家具の生産が盛んで、出荷額や製品のバラエティは群を抜いており、三河地方はその中心地だ。

昭和42年に家具メーカーとして岡崎市で創業したオリバーは、その後、ホテルやレストランなどの業務用家具分野へ進出して業績を伸ばし、現在、その分野ではトップの販売高を誇るまでに成長した。また、新しく完成した首相官邸や常滑沖の中部新国際空港へも家具・インテリアを納入するなど、国内の代表的な家具メーカーとして注目を浴びるようになっている。

従業員数は約350名、営業の拠点は北海道から九州まで80箇所以上ある。自社工場は岡崎工場と豊橋工場の2ヵ所で、岡崎では籐製品の組み立て、豊橋では応接セットやいろいろな椅子を中心に生産しているが、そのほかにも国内の協力工場が多数あり、また、独自ルートで海外の家具メーカーとタイアップしたり、西欧、北欧、中国、東南アジアなど世界30カ国の工場に生産を委託している。

副社長の中根研吉さん

「つくっている家具は椅子やテーブルのほかにもいろいろあるし、扱う素材も木はもちろん、金属、プラスチック、布、革など非常に多様です。家具に関する総合力が当社の大きな強みなのです」と副社長の中根研吉さんは強調する。小規模な家具メーカーが多いなかで、オリバーの規模、製品の多様性は際だっている。

パンフレットには「インテリアゼネコン」という言葉で表現されているが、オリバーは、たんに家具を生産するだけでなく、施設インテリアのプランから家具の納入・施工までをトータルにプロデュースするという、これまでの家具メーカーからは想像できない分野まで活動の場を広げつつある。

オリバーがこうした総合力を獲得したのは、コントラクトと呼ばれる業務用分野にいち早く参入したことが、その背景にある。

■ユーザーと一緒に形をデザインする

「もともと、生産したものを小売店に並べて販売するのが家具の基本的な販売スタイルでした。
当社も創業当初はそういうやり方をしていたのですが、いち早くコントラクトというスタイルを採用したことが規模が拡大したきっかけです。コントラクトというのは『契約』という意味で、われわれはユーザーの要望に合わせてデザインをして、サンプルをつくって品質を確認してから生産を進めます。いわゆる受注生産と同じです。それは家具業界の中でまったく新しい試みでした」と中根さん。

現在でも、このような受注生産を行っている家具メーカーはそれほど多くない。しかし、ユーザーにとって、思い通りの寸法や機能、意匠が得られる受注生産のメリットは大きい。とくにホテルやレストランなどの業務用分野では、かつては既製の家具を導入していたものの、建築との調和を考えたオリジナル家具を導入する動きは、現在、非常に増えている。ある意味で、オリバーは新しい家具の在り方を提示したといっていいかもしれない。

中部新国際空港へ納入した椅子2

コントラクトには2つのポイントがある。ひとつは、ユーザーが求める形や色などを何度もヒヤリングしながら具体化していく作業である。このとき、たとえばホテルの家具の場合、建物コスト、ロケーション、各部屋の広さなどを考慮して、全体の調和の中で捉えた最適な家具を提案することも求められる。

さらに、そこで決まったデザインを、製造現場へ的確に伝える必要がある。設計図があるにしても、それだけでは伝わらないニュアンスがあるため、そこをどうやって家具という形に再現していくかに独自のノウハウがある。

たとえば、ホテルのデスクやドロアなど木製のキャビネット類は部分的に曲面があるものの、大部分が二次元の面で構成されているため、木目の流れや面などディテールについての具体的な確認を通して、イメージに限りなく近づけることは比較的可能だ。

これに対して、椅子は直線や平面が少なく、全体的なプロポーション、スケール感などを把握することが難しい。さらに、クッションの柔らかさや座り心地など個人差の大きい価値判断と意匠性・強度・耐久性をどうやって両立させるかといった、困難な設計が求められる。

そのため、椅子は、ほとんどの場合、原寸大の試作品でデザイン・機能性・強度面など検証し、寸法や形だけでなく色や柄、光沢、触感など、多くの修正が加えられるのが一般的で、過密な日程の中で短期間に二度三度と試作のつくり直しを行うこともめずらしくないという。

また、このように苦労を重ねてつくり上げた家具が、最終的な納品段階で修正を迫られることもある。
「完成した家具をいざ搬入というとき、入口より家具が大きすぎて入らず、せっかく仕上げたものを分解・組み直したり、窓のサッシを外してクレーンで搬入した苦い経験もあります。

また、ホテルなど高層の建物は、同じ間取りでも上層階に行くほど柱が細くなっていて、思わぬ隙間が開いたり、平らに見える壁が傾いていたり湾曲していて、あわてて手直しということもありました」と中根さん。それでも、「こうした失敗を糧にして知恵やノウハウは身につくもの」と分析し、「ユーザーと話し合いながら、まっさらなところからひとつの形をつくりあげていくことが、この仕事の醍醐味」と語る。

■熟練技が要求される生産現場

岡崎工場長の石川孝一さん

このように、意図を「くみ取る」「伝える」というコミュニケーションを何度も繰り返しながら、ユーザ-と一緒になって家具を形づくっていく作業をソフトと捉えるならば、もうひとつのポイントはハード、つまりデザインに基づいて実用に耐えうる機能を備え、しかも質の高い家具を実際につくる作業である。そのうち、主体となる木製家具は、人間の手技や判断がまだまだ必要不可欠な分野だ。

岡崎工場長の石川孝一さんは「家具は工業製品なのか工芸品なのか。たとえば、スチール製の回転椅子・机などは、生産の機械化が進んでいるため工業製品といっていいでしょう。しかし、木製の家具は、機械化は進んでいますが、まだまだ職人の熟練技が不可欠です」と話す。つくる技術ももちろんだが、家具のクオリティを決めるのも人間の判断だ。

たとえば椅子をつくる場合、食事用の椅子か休息用の椅子か、その用途によっても基準は異なり、また、体重によってクッションの沈み方も違うため、何度も座って背中やお尻で確認する。座り心地の良い椅子はこういうもの、という絶対的な基準があるわけではない。「人間工学は絶対的な基準ではありません」と石川さん。

木製家具がどのようにつくられるのか、その過程を簡単に説明すると、一般的に家具メーカーは、まず東南アジア諸国やアメリカ、カナダをはじめとした海外や国内から、家具の素材として適した原木を選び、その製材したものを仕入れている。

その後、デザインに合わせて機械で木取りし、さらにカッター、自動かんな、ベルトサンダーなどの機械で加工して組み立てる。続いて、木目を生かし、表面を強くするために塗装し、最後に金具やガラス、革、布などを取り付けて完成する。オリバーは、素材そのものにこだわるために、ニュージーランドに「オリバーファーム」という牧場を建設、ソファーや椅子に使われる革の技術ノウハウの蓄積にも努めている。

その生産工程では、木の収縮を考慮した加工が必要になるほか、十分な木の強度が得られる木取り方法、最終的な仕上げなど、職人の判断が求められる作業がたくさんある。塗装後、表面に埃が付着しているかどうかも、一つひとつ人間の目で検査しなければならない。これら木製家具をつくる一連の作業工程を理解し、技術を習得するには最低でも10年はかかるという。

もちろん、最近ではコンピュータに数値を入力すれば、ワザと「手作りの味」を表現することも可能になってきているし、以前に比べると熟練技が機械へ置き換わっていることも事実である。しかし、家具づくりが、たとえばボタンを押せばできあがってしまうような完全自動化へ向かうことはあり得ない。むしろ、効率化を追求しながらも、「人間の息吹をどれだけ込めることができるか」が、今後の家具づくりの大きなテーマとなっており、それはコントラクトの分野でも変わりない。

■オリジナルにこだわる

本社外観

コントラクトと呼ばれる業務用の受注生産スタイルを確立したオリバーは、個々の空間に適した家具を提案する力と、それをあらゆるネットワークを活用してつくる力によって、業務用分野の家具の新しい形を提示した。

現在、その分野は、ホテルやレストランのほかに、医療・高齢者施設、スポーツ・レジャー施設、博物館や空港などの公共施設、大学・学校など、さまざまな空間へと広がりをみせている。それらはすべて一からつくり上げたもので、同じものは二つとない。

「われわれがつくっている家具は服に似ています。たとえば、自分と同じ上着やネクタイをした人に出会うと不快になるように、家具も人と同じものは嫌だという思いがあります。だからこそ、われわれは、業務用にしても家庭用にしても、常にオリジナル性を追求することが求められている。当社の家具工場で働く職人たちは、そこにものづくりの喜びを感じているはず」と石川さんは分析する。

現在、日本国内の家具生産は、中国を含めた海外からの輸入品が増加しているために減少傾向にあるが、その課題を乗り越えるためには徹底してオリジナルにこだわる必要がある。その空間のためだけの家具──。そして、そこにこそ家具づくりのおもしろさもある。

「生まれて一度も家具を使ったことがない人はいません。人にとって身近な存在であり、誰でもそれなりの知識を持っている。非常に人間的な道具であることは確かです
。『家具を見せてください。そうすればあなたがわかります』
という北欧のことわざがあります。
つまり、家具は自分自身のアイデンティティを表現するひとつの道具なわけです。
今後は、人々の関心がもっと家具やインテリアに向いてくると思っています」
と期待を込めて話す石川さんの言葉のなかに、今後の家具づくりの新たな可能性がある。

◆愛知ブランド企業 認定番号046
株式会社オリバー