ものづくり王国・愛知

有限会社ファインモールド

大好きなプラモデルづくりに賭けた情熱と覚悟

■プラモデルが大好きな集団

のどかな風景の中に建つファインモールド

子どもにとって、プラモデルはものづくりの楽しさを知る格好の教材である。ファインモールド社長の鈴木邦宏さんは、小学生のときにプラモデルに魅せられ、その思いをずっと失うことなく現在まで持ち続けている。
ファインモールドは、鈴木さんの個性を抜きにして語ることはできないが、社員5名全員が社長と同じように「プラモデルが大好き」という思いを共有しているところが、実は最大の強みといっていい。

ファインモールドを設立する前、鈴木さんは職を転々とするなかで、どうしてもプラモデルをつくりたいという気持ちを抑えきれず、岐阜にあったプラモデルメーカーの協力工場として金型をつくる小さな会社に願い出て、住み込みで働くこととなった。
そこでプラモデルづくりのノウハウを学ぶうち、次第に自分オリジナルのプラモデルをつくりたいという思いが強くなっていったという。

「自分の金型をつくらせてほしい」。社長にそう直訴するも、「そんな話は聞いたことがない」と一蹴されてしまう。しかし、鈴木さんは諦めなかった。
何度も何度も説得するうちに、「お前には負けたよ」と社長が折れて金型づくりの許しが出た。
さっそく友人の漫画家・鳥山明氏にデザインを依頼して、オリジナルのフィギアをプラモデル化。それはヒット商品となり、業界でも話題となった。

それを機に、鈴木さんは会社を退職して、友人と二人で念願だったプラモデルメーカーらしきものを立ち上げる。しかし、それは長続きしなかった。
それでもプラモデルづくりを諦めきれない鈴木さんは、昭和62年、一人で再独立する。自宅の6畳間で、こたつの上に10万円の加工用機械を置いてのスタートだった。それがファインモールドの創業である。

「ここで諦めてしまったら一生後悔すると思った」と鈴木さんは当時を振り返る。そのころは、兵隊人形をつくって販売したほか、他メーカーの完成見本品をつくる仕事を引き受けながら、少しずつ貯めた資金で順次機械を買い足していった。

■細部まで忠実に再現する

現在のファインモールドの主力商品は、鈴木さんが学生のときから研究を続けている旧日本軍の航空機や戦車である。同社が最初につくった1/48スケールモデルは、九六式一号艦上戦闘機と呼ばれるモデルだった。九六式には一号から四号まであり、最もメジャーなのが四号で、一号はマイナーな存在だった。

鈴木邦宏さん(工場内で)

あえてマイナーな一号を選んだのは、どこのメーカーでもモデル化されていなかったということに加え、鈴木さんが「単純に好き」だったからだという。
自身がプラモデルマニアで、マニアの心理が手に取るようにわかるという鈴木さんだからこその選択だったといえるかもしれない。
その後も、「彗星」「橘花」「秋水」など、他のメーカーが手がけない戦闘機を次々と世に送り出して、同社はマニアの注目を集めていくことになる。
「うちが出す商品は、他のメーカーはバカらしくてどこも手を出しません(笑)。どことも競合しないから価格競争にならない。

結局、売れないから他のメーカーはやらないのでしょうが、僕の考えでは、果たして本当に売れないのかという疑問がある。自分たちのような規模の会社であれば、それほどたくさん売れなくてもいい。そうであれば十分勝算はある」。

多くの中小プラモデルメーカーが誕生しては消えていくなかで、ファインモールドがここまで生き残ってこれたのは、「プラモデルが大好き」という思いと同時に、「ほかと同じものはやらない」
という明確な姿勢を貫き通したからでもある。そこには十分採算がとれる戦略もあった。

その戦略を支えたひとつが、鈴木さんが蓄積してきた豊富な知識である。資料室にはこれまで集めた戦闘機や戦車に関する専門書、図面などが何万冊とある。そうした資料を基に、忠実にスケールモデルとして再現していくのである。たとえば、平成15年に発表した戦闘機「烈風」は、終戦間際に試作された機種だけに資料が極めて少なかった。

それを国立国会図書館や製作していた工場で資料や図面を探し出し、一つひとつ忠実に再現していった。そうしたこだわりは組み立て説明書にも表れ、戦闘機が誕生した歴史的背景が詳しく説明されていることで知られる。プラモデルの戦闘機を通して、当時の技術者のすごさや世界の動きが認識できるようになっているわけである。

そして、もうひとつのポイントがプラモデルづくりの要である金型を内製している点だ。ほとんどのプラモデルメーカーが金型を外注しているなかで、なぜファインモールドでは内製しているのか。それは、図面や言葉では伝わらないニュアンスを表現するためには、自分たちでつくるほかなかったからだそうだ。

たとえば、もう少し柔らかい線を出してほしいと注文しても、その柔らかさは伝えようがない。しかも、内製すれば外注費のようなコストを削減できるほか、何度でも納得いくまでやり直しがきくというメリットがある。実際、出来上がった金型を一からつくり直すことも度々あるという。

限られたマニアに向けて、アっと驚く商品を提供し、しかも事業として成り立つ戦略を、鈴木さんは明確に持っていた。それは、具体的に言えば、採算のとれる価格設定、梱包・出荷作業を社員全員で行うなどの柔軟な生産体制、細部まで徹底的にこだわるものづくり、である。もちろん、その背景には「プラモデルが大好き」という思いがあることは言うまでもない。

■『紅の豚』 『スター・ウォーズ』で注目を浴びる

「サボイアS21」のプラキット

創業から9年目、ファインモールドは一つの転機を迎えようとしていた。これまで培ってきた戦闘機や戦車をつくるノウハウ・知識をもとに、何か違うことをやりたいという話が社内で出たとき、スタジオジブリのアニメ映画『紅の豚』の戦闘機はどうだろうとなった。

さっそく、付き合いのあった出版社を通じて宮崎駿監督に面会を申し込むと、会ってくれることになった。宮崎監督との会見の際、『紅の豚』のモデルとなったイタリア製の戦闘機に関する話などで盛りあがり、商売の話はほとんどしなかったが、結局、「好きにつくってください」と快諾を得ることができた。

そのとき、鈴木さんは「なんだ、版権を取ることって意外と簡単だな」と思ったそうだ。しかし、大手のプラモデルメーカーが何社もスタジオジブリに版権を申し込んでいたが、ことごとく断られていたことを後で聞いて、びっくりした。
「よくわかりませんが、私のプラモデルに対する思いが宮崎監督に通じたということでしょうか。
業界では、どうしてうちが版権を取れたのかと驚いていたようです」と鈴木さん。

『紅の豚』に登場する戦闘飛行艇「サボイアS21」は、「1920年代末のアドリア海(劇中の時代設定)で実在した」航空機として設計した。劇中に登場する戦闘機は宮崎駿監督の創造物だが、製造メーカーや戦闘機の形式名称、搭載するエンジンは実在するため、そのエンジンの実物図面を三菱重工業から入手し、宮崎監督に「このエンジンが本当に入っているなら機体の形状はこう変わる」と提案した。

アニメーションという2次元、しかも膨大な絵(セル画)を必要とする世界では、どれが「正確」な形状とは言い難い。その点を宮崎監督も理解し、笑いながら「よく調べましたねえ」と感心し、快くその提案を受け入れたという。

こうした経緯を経て完成した「サボイアS21」は、平成11年に発表すると、業界をアっと言わせるとともに、これまでの同社が蓄積した技術・ノウハウを盛り込んだスケールモデルとして高い評価を得て、たちまちヒット商品となった。

その2年後の平成13年、ファインモールドは再び業界を驚かせる。今度は、あの『スター・ウォーズ』シリーズに登場する戦闘機「X-ウィング」をリリースしたのである。きっかけは社員の提案だった。ライセンシーに対してチェックが厳しいルーカス・フィルム社を納得させるクオリティを目指すという、明確なハードルが存在したことが、鈴木さんを含めた社員全員の挑戦意欲をかきたてたのだ。

さっそくアプローチを開始すると、ルーカスフィルム社のモデル担当者に原型見本をつくって見せてほしいと要求された。普通、プラモデルには図面はあっても原型はない。しかし、X-ウィングには各国のプラモデルパーツが使われていることを見抜いた鈴木さんは、精密な原型を自らが手作業でつくりあげた。それを見た担当者は「素晴らしい」と一言、一発で承認された。
X-ウィングは発売と同時にヒットし、ファインモールドの名前は、より幅広い層に知られるようになっていく。

■「いいものをつくることぐらいしかできない」

X-ウィング

しかし、そうした周囲の期待や注目が集まるなかでも、鈴木さんは至って冷静に、これまでの姿勢を変えることはしない。
「紅の豚は1920年代に実在したイタリアの飛行機の構造からアプローチしたし、X-ウィングは映画撮影に使用されたミニチュアにどういうプラモデルのパーツが使われているかというところからアプローチしました。 事前にリサーチをして、それをもとに忠実に再現していく方法は、戦車や飛行機をつくるときと全く同じです」。

同社にとって、『紅の豚』や『スター・ウォーズ』のシリーズを手がけることは大きな挑戦であったことは間違いない。しかし、それは細部まで徹底してつくりこむという視点から見れば、何も特別なことをしたわけではないという思いが鈴木さんの中にはあるのかもしれない。

「『いいものをつくれば必ず売れる』というわけでは決してありません。やはり営業力や販売力によって左右される部分が大きい。でも、僕らのような中小企業にまず何ができるかというと、いいものをつくることぐらいしかできないんです。大手に比べて販売力も資金力も劣っている中小企業が、それを捨てたら何が残るのか。唯一勝てるのはそこだけなんです」。

納得できなければ図面や金型を一からつくり直すのは、効率の追求という面から見れば、企業にとってマイナスかもしれない。しかし、中小企業にとって、それは本当にマイナスなのか。
少し長い目で見れば、それは企業を存続させるための有力な選択肢ではないのか。「いいものをつくることぐらいしかできない」という鈴木さんの覚悟。常に期待以上のものをつくり続けるファインモールドのファインモールドたる所以が、この言葉の中にある。

◆愛知ブランド企業 認定番号050
有限会社ファインモールド